『でっちあげ』書評

人間関係・社会

こんな人におすすめ|この本を選んだ理由

SNSや報道で、ひとりの人が一斉に批判される状況に違和感を覚えること、ありませんか。

周りの意見に流されやすい人、情報を鵜呑みにしてしまいがちな人におすすめの1冊です。

この本を通して、一方の主張を鵜呑みにせず、物事を多面的に考える力がいかに大切かを痛感できると思います。

ひとつの思い込みや嘘が大きな事件へ膨らみ、正義を信じる普通の人々まで加害者になったことに衝撃を受けたため、この本を選びました。

『でっちあげ』の概要

この本は、福岡市の小学校で起きた、教師による児童へのいじめ・虐待が疑われた事件を扱うノンフィクション作品です。

保護者の訴え、医師の診断、学校や教育委員会の対応、報道が重なり、教師が社会的に追い詰められていく経緯を生々しく事細かに描いており、著者・福田ますみさん(以下、著者)の取材力にたびたび驚かされました。

著者は関係者への取材と資料の検証を重ね、当初広まった物語と後に確認された事実との違いを明らかにしながら、事件の構図を解説していきます。

印象に残った3つのポイント

正義を信じる普通の人が、集団で加害者になる怖さ

まず印象に残ったのが、一方の強い訴えが、十分に検証されないまま「事実」として受け入れられていったことです。

報道や周囲の反応が互いを補強していき、「教師は悪人だ」という見方が疑われにくくなっていきました。

自分自身が批判を投稿しなくても、みんなが「この人は悪い」と言えば、その目線で見てしまうことは誰しも経験があると思います。

昨今のSNSで起きる集団的な批判と共通する、日常から遠くない構図だなと感じました。

本作品では、事件が広まりつつある当時にも、噂や報道を鵜呑みにせず、「違和感」を感じている人がたびたび登場します。自分も「情報に踊らされない側」になれたらなあ、と思いました。

医師の診断が社会的な「証拠」になる責任

次に、精神科医の診断が与える影響についてです。

精神科医が、本人や両親の話をどこまで検証したうえで診断したのか、疑問を感じました。

医師の診断は治療のためだけでなく、社会から「専門家による証拠」と受け止められ、裁判所に証拠の材料として提出されます。今回は、カルテの開示によって、十分な検証なく診断されたことが明らかになりました。

診断や言葉が、当事者だけでなく第三者の人生にも大きな影響を与える可能性をひしひしと感じました。

同じ医療者として、自分の立場が持つ社会的影響を改めて実感し、身が引き締まる思いになりました。

真相に近づいた著者の綿密な取材力

最後に、著者の取材力に感銘を受けました。

教師、保護者、学校、教育委員会、医療、報道など、各方面への取材を積み重ね、当事者の主張と、資料や証言から確認できる事実を分けて提示しています。

最初から結論を押しつけず、食い違いをひとつずつ検証していく構成が印象的でした。

衝撃的な結末もさることながら、綿密な取材によって別の角度を示したことが本書の価値だと感じました。

読んでどう活かせるか

この本を読んで実生活に活かせることとすれば、まずは最初の報道や最初に聞いた主観だけで、善悪を判断しないことです。ついつい報道機関に一定の信頼感を置いて情報を仕入れてしまいますが、それだけでは不十分なのだと痛感しました。

また、当事者の一方の主張と、確認された事実を分けて考えることも大切だと思います。
「別の角度から見ると、本当は違うかもしれない」と問い直す姿勢も常に持っておきたいものです。

また、強い怒りなどの感情を持ったときほど、すぐに批判や情報の拡散をせず、冷静になる必要があると思います。そのいっときの感情が、他人の人生を大きく狂わせるかもしれません。

まとめ|本当に怖いのは正義を疑わなくなること

『でっちあげ』を読んで本当に怖いと感じたのは、特別な悪人ではなく、正義を信じる普通の人々が、いつの間にか誰かを追い詰める側になってしまうことです。ひとつの主張が「事実」として広まり、報道や専門家の言葉がそれを補強すると、別の角度から疑うことは難しくなります。

だからこそ、ニュースやSNSで強い怒りを覚えたときほど立ち止まり、一方の主張と確認された事実を分けて考えたいと思いました。「本当は違うかもしれない」という視点を忘れず、安易に批判や拡散へ加わらないことが、自分にできる小さな実践です。

また医療者として、専門家の判断が社会的な「証拠」となり、誰かの人生を左右しうる責任も改めて感じました。著者の綿密な取材が示すように、思い込みに流されず、事実を確かめ続ける姿勢を大切にしたいです。

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