もし、手を入れた瞬間に火傷しそうな熱い水の中で、平然と生きている生き物がいるとしたら、どうだろうか。
お風呂でも42℃を超えると「熱い」と感じる人が多い。まして60℃を超える場所と聞くと、人間にとってはとても命が保てる環境とは思えない。
ところが最近、そんな温度の中でも生きている「アメーバの仲間」が見つかったという研究報告が話題になっている。
場所は火山の近くにある温泉地帯。まさに「火のそばの世界」で暮らす小さな生き物の話だ。記事はこちら。
どんな生き物を、どう調べたのか
今回の研究で注目されたのは、単細胞と呼ばれる非常に小さな生き物だ。
人間の体の細胞と同じく「核」を持ち、細菌よりも複雑なつくりをしている。
研究チームは、火山地帯の熱い水の中からこうした微生物を採取し、実験室に持ち帰って詳しく調べた。
驚くことに、その生き物は60℃を超える環境でも活動を続けていた。
普通なら熱でたんぱく質が壊れ、細胞は動けなくなってしまうはずの温度だ。これまで高温に強い生物といえば、細菌など非常に単純な構造を持つものが中心だった。
今回の発見は、比較的、作りが複雑な生き物でも、そこまでの熱に耐えられる例があることを示している。
研究者たちは、電子顕微鏡などを使って細胞の構造を観察し、生存できる仕組みを探っている。
たとえば、熱に強いたんぱく質を持っている可能性や、細胞の中の水分や膜の性質が特殊なのではないか、といった仮説が検討されている段階だ。
生命の限界は、思ったより広いのかもしれない
この研究が教えてくれるのは、これまで「生命はせいぜいこのくらいまでの温度で生きられる」という想像が覆される可能性があるという点だ。生き物が生きられる温度の上限は、私たちが考えていたよりももう少し上になるかもしれない。
ただし自然界は条件ごとにまったく違う環境で、今回のアメーバだけが長い年月をかけて特殊な場所に適応してきた可能性がある。誰でも簡単に真似できる働きではなさそうだ。
一方で、この研究は、宇宙に生命がいるかどうかを考える材料にもなる。もし地球上でこれほど過酷な環境に適応した生き物がいるなら、他の星にも、私たちが想像できない形で生きている存在がいても不思議ではない。
この発見がつながるかもしれない、未来の話
今回の研究は「珍しい生き物が見つかった」で終わる話ではなさそうだ。うまく仕組みが解き明かされれば、私たちの生活にも、少し先の未来に影響してくるかもしれない。
まず医療や研究の世界では、高温に強い生物の性質は、より壊れにくい医療器具や検査キットの開発につながる可能性がある。
消毒や加熱に耐える素材が増えれば、感染対策の安全性が高まったり、医療現場の手間が減ったりすることが期待される。
宇宙分野においては、地球以外の星は、極端に暑かったり寒かったりする環境が当たり前だ。
もし生き物が高温環境に適応する仕組みが解明されれば、探査機の素材開発や、センサー技術の改善にもヒントを与える可能性がある。生命探査そのものの考え方にも影響が出てくるかもしれない。
さらに、食品や保存技術への応用も想像されている。
高温でも壊れにくいたんぱく質の仕組みが解明されれば、加熱調理で栄養が失われにくい食品や、長持ちしやすい加工技術につながる可能性がある。



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